北欧神話と日本神話の世界観は、じつはとても似てる件。以前もまとめてましたが。
今回は北欧と日本は、「地底の神話」も似てるという話について。
日本神話の地底世界

基本的に日本神話の世界は、フラットアースの世界観であると言っても過言じゃないです。
記紀神話には地球はまん丸いとは書いておらず、天界、人間界、地底界の重層構造になってますのでね。これが世界樹によく似てると思うわけですが。
まずは日本神話の地底世界について確認しとこう。
・黄泉(よみ)
黄泉は日本における死者の国で冥界で、日本書紀や古事記などに登場するんです。
黄泉は古代中国の神話にある思想で、「黄」は土であり、地中にある泉を指しており、人の死後に魂が向かう場所であるという。従って黄泉の世界は、地底にあるとわれることが多いです。
記紀神話によれば、黄泉は灯りをつけないと何も見えない真っ暗闇のところ。黄泉と闇は同源みたいですが。
伊邪那美が腐った死体の状態で黄泉大神となっていたように、黄泉の死者は再生することもなく永遠に死者の姿のままであるとか。
黄泉戸喫(よもつへぐい)とある通り、黄泉の食べ物を口にすると二度と生者として地上に戻ることは叶わないらしいです。すると行きたまま黄泉に出入りする者もいたようで。
・根の国(根の堅洲国)
根の国はスサノオが治めている地底の冥界で、別名で根の堅洲国というとか。
黄泉の世界とは同じではないが、黄泉平坂で繋がってるらしい。また海原の果てに根の国があるともいう。
古事記によると、出雲の大国主神が兄弟の神々に猛烈にイジメられ殺されるところ、スサノオに助けをもとめ、根の国入り込んだとある。
古事記では地底の黄泉は真っ暗闇な描写があるのだが、根の国は真っ暗闇な描写はないので、肉眼で景色が見える空間みたいです。
根の国にはスサノオの宮殿があり、そこで大国主神は須勢理毘売命(すせりびめのみこと)と結婚する話が出るのだが、スサノオから試練が与えられました。蛇の室の試練、ムカデと蜂の室の試練、火攻めの試練。須勢理毘売命とねずみの助けを得て、試練を乗り越え、地上に戻ったとか。
大国主が根の国に入って出られたことは、死と再生を表すということのようです。
・黄泉比良坂と千引きの岩
イザナミのいる黄泉と、スサノオのいる根の国の出入口は黄泉平坂です。古来より出雲にあると伝わっており、現在地は島根県松江市東出雲町揖屋の伊賦夜坂だそうで。
千引の岩はイザナギが黄泉から逃げ帰るときに、黄泉比良坂を塞いだ大岩で、千人で引かないと動かせない程であることからこの名があります。イザナギはとんでもない怪力の持ち主だったとか。
・黄泉大神(よもつおおかみ)
黄泉大神とは、伊邪那美が死んで黄泉の国へ行ったあと、ラスボスになった姿。
神話によれば、黄泉の国に向かった伊邪那美を追って、伊邪那岐が黄泉の国に入りました。すると伊邪那美は腐った死体となっており、八雷神と一体化した黄泉大神となっていました。
黄泉大神は鬼神の形相で1日に人間を1000人ぶち殺すぞとか言っていまして、人々を死に導く邪悪で恐ろしい存在でした。
1日1000人だとすると、100日で10万人、千日(2.73年)で100万人、1万日(27.3年)で1000万人。
・黄泉醜女(よもつしこめ)
黄泉から伊邪那岐が逃げ帰ろうとするときに、黄泉大神は配下の黄泉醜女を呼び出し、伊邪那岐を捕まえさせようとしました。
黄泉醜女は日本神話の黄泉に登場する怪物で、古事記では予母都志許売、日本書紀では泉津日狭女(よもつひさめ)と呼ばれてます。
伊邪那岐は山葡萄や筍を生やすなど、さまざまな魔法を駆使して黄泉醜女の追跡をかわし、出口である黄泉平坂へたどり着き、天界へと逃げ帰ったのでした。
・素戔嗚尊(すさのおのみこと)
地底の根の国(根の堅洲国)を治めているのが、素戔嗚尊でした。
素戔嗚尊は言わずとしれた天照大神の弟神で、武神、荒ぶる神、厄除けの神として信仰されました。
素戔嗚は根の国にやってきた大物主神に数々の試練を与えたことが知られますが。試練を乗り越えた大国主神に、須勢理毘売命との結婚を許したり、出雲国の支配権を与えたりしてました。
・ねずみ
古事記によると、根の国で大国主神が焼き殺されそうになっているところ、ねずみが現れました。ねずみは地下の穴に大国主神を導いて救ったのでした。それ以降ねずみは大国主神の使いとなり、五穀豊穣の象徴となっているとか。
北欧神話の地底世界

次に北欧神話のクレアラシルじゃなくて、ユグドラシルの地底世界についても、ちょっと確かめてみよう。
・ニヴルヘイム
北欧神話では、地球は世界樹ユグドラシルという多層の平面世界であるとしていのですが。ユグドラシルの下層にある暗い空間が、ニヴルヘイムでした。
ニヴルヘイムは氷の国(霧の国・暗い国)と呼ばれています。
世界樹の根の下にフヴェルゲルミルという泉があるという。ここに大蛇のニーズヘッグが住んでいるとか。
ニヴルヘイムのギョッル川には黄金の橋ギャラルブルがあり、女巨人モーズグズが門番として滞在しているとか。
・ヘルヘイム
ヘルヘイムは地底にある死者の国で、ニヴルヘイムの一部分と解釈されたり、神話によっては同一視されてたりもする。
オーディンの選ばれし死者世界ヴァルハラに、行けなかった死者の魂が赴くところが、ヘルヘイムらしいです。
ギョッル川のモーズグズという女門番がいる橋を通り抜けて、ヘルヘイムに行くことができるそうです。その橋のはるか北方に死の女神ヘルがいる、ヘルヘイムがあるとか。
ヘルヘイムのさらに下にはニヴルヘルという、悪い人間の魂が送られる冥界があるという。
・死の女神ヘル
北欧神話の「エッダ」などで、ヘルは死者の国を支配する女神。ユグドラシルの下層にある、死者の国ヘルヘイムの、エリューズニルという館に住んでいるとか。オーディンにより天界から地底に追放されたという。
ヘルは邪悪な存在で、死者を支配する役割があり、死者を生者に戻せる神で、体は上半身は肌色で、下半身は腐敗しているらしいです。
・モーズグズ
北欧神話の「スノッリのエッダ」には、モーズグズという巨人の女が登場します。
別の呼び名はモッドグッド、激怒する戦士などともいうらしい。
ヘルヘイムとの境界に流れるギョッル川(騒々しい川)の、ギャッラルブルー橋の監視役。死者の魂がヘルヘイムへ向かう時に、名前と要件を述べると対岸へ行くことを許可するという。また死者の魂が生者の国へ戻ることを防いでいたということです。
オーディンはユグドラシルの最高神で、戦いの神、知恵の神、魔法使い。オーディンの意味は「荒れ狂う」。
8本脚の空飛ぶ馬スレイプニルに乗って天空や地底を巡ったり、戦死者の魂を選別し自らの永遠の兵士とするとか。
ユグドラシルにはてっぺんからヘルヘイムまで駆け巡る、ラタトスクというリスがいました。
ラタトスクはユグドラシルの全ての情報を知り尽くす存在であり、情報伝達の役割だったり、怪物同士の喧嘩をけしかける曲者としても登場しているとか。
北欧と日本の地底世界の設定が似てる件
日本神話の基本が分かったわけですが。
それでは以下にユグドラシルの地底世界と、日本神話の地底世界の類似点を並べてみる。
女神ヘル(腐った死体) 伊邪那美(腐った死体・黄泉大神)
モーズグズ(モーズ) 黄泉醜女(モツ)
ニヴルヘイム(ni) 根の国(ne)
ヘルヘイム(ヘル) 黄泉比良坂(比良)
ニヴルヘイムの泉 黄泉(地底の泉)
大蛇ニーズヘッグ 蛇の室(大国主神の試練)
こんな感じになった。以下で解説。
地下に死の女王が存在するという点では、ヘルヘイムの女王ヘル、黄泉の女王イザナミ(黄泉大神)で同じですね。
ニヴルヘイムと根の国を考えると、「ニ=根」で繋がってる。しかもニヴルヘイムにはユグドラシルの根っこが伸びていて、泉がある。
要するにスサノオの統治した根の国とは、植物の根っこの先の国なのであり、それはユグドラシルの根なのではないかと想像してしまうところ。
モーズグズはなんか奪衣婆のようでもありますが、黄泉醜女とかぶるところがありますね。
監視役で激怒して追いかける、という感じだとすると。名前もモーズとモツで、似てる感じがするし。
そういえば神道では人が死ぬと魂はこの世や霊界にとどまって、身近な人の守護になるとかいうらしい。
一方で仏教では人が死ぬと、地獄、餓鬼、畜生、修羅、人間、天というの六つの世界を生まれ変わりながら、徳を積みながら最終的に極楽浄土を目指すとか。
一方で記紀神話では、死者の魂は黄泉に向かうということが書いてあります。黄泉は地底世界にあった死者の国であるという設定です。
要するに日本神話の魂の行き着く場所の思想は、ユグドラシルのヘルヘイムに近いなと思いましたね。
黄泉比良坂の「比良」もなんかヘルに通じるところがありますし。「黄泉ヘル坂」だったりして。
大蛇ニーズヘッグに対するのは、根の国の蛇室ですね、あの大国主神の試練にでてきましたが。
まぁスサノオや大国主など日本の神々自体が、巨人であるという説がありまして。そうすると根の国の蛇も大蛇だったかもしれないです。
スサノオは海原の支配者であるので常世の国もスサノオの領域だったと見られます。常世の国は理想郷とか先祖霊の集まる場所とかいうのです。
オーディンはユグドラシルの最高神でアースガルズの支配者で、選ばれた魂を自らの領域ヴァルホルに集める存在だったんですね。魂が集まる場所を所有したという意味で、同じではないかと。
あとどちらも荒ぶる神、戦いの神、多くの神を生み出したという点でも一致する。オーディンもスサノオも、天上界から地底までもぐるっと移動してるし。そういう意味でいろいろ共通点があるかと。
あと気になったのがリスのラタトスクで、神話ではユグドラシルを知り尽くしており、駆け巡るメッセンジャーの役割でした。
一方で根の国のねずみは大国主神を助けた存在になってました。このねずみも地上と地下を行き来する存在なわけですし、大国主神が助かる空間の場所を教えたという意味でも、ラタトスクぽい感じしましたね。
まぁ冥界なだけに単純明解、というわけには行かないけれども。根の国の話なだけに、北欧と日本の神話の根っこは一緒だったみたいです。
日本神話って中国やアジアに近いとかの、学者の認識は間違いではないかと思いますね。
ぽちされたすかり
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