気になる小説や漫画はいろいろ読んできました。一つはこれ。
「伊藤潤二傑作集6 路地裏」の、「道のない街」
○いつも助かっております
道のない町
あらすじ
学生の彩子(さいこ)は毎日のように夢を見るのだが、その夢は妙にリアルだった。あるひ夢で岸本くんに告られた。その時に切り裂きジャックが現れて、夢のなかで岸本くんは刺し殺されてしまった。
夢のなかの殺人事件のはずだったのに、現実でも岸本くんは死体で発見される。
数カ月後、彩子の一家は異常な行動を取るようになっていた。父・母・兄・弟が、彩子の部屋の様子を、常にのぞき見する状態になっていたのだ。
彩子がやめて欲しいと懇願すると、「なんのことだ」「そんなことするわけない」「変なことを言うな」などと全否定する一家。
しかし彩子がいったん自室に戻ると、家族全員が彩子の部屋をのぞき見はじめるのだ。壁、天井などあらゆる場所に穴を開けて、父・母と兄・弟は彩子をのぞき見る行動を、やめることができない。
→彩子「のぞき見やめて」→家族「そんなことしてない」→彩子をのぞき見る家族→
→彩子「のぞき見やめて」→家族「そんなことしてない」→彩子をのぞき見る家族→
→彩子「のぞき見やめて」→家族「そんなことしてない」→彩子をのぞき見る家族→
・・・・・・(繰り返し)
そんな現実に嫌気がさして、彩子はまたまた家出した。
向かった先は小里町大西三丁目。しかしこの大西の街こそが、のぞき見文化の根源になっているとは、彩子も知らないことだった。
小里町大西三丁目は違法建築が溢れている。そしてあらゆる悪事が違法でありながら、堂々とまかり通っている街であった。この街はあらゆる家屋の中が通り道になっており、他人の私生活をのぞき見る人々で溢れかえっていた。
だからプライバシー確保のために、人々はお面を被っている。彩子は家出先に玉枝おばさんの家を選んでいた。そこに行きたいのに道に迷っていると、仮面の男が現れて道案内をしてくれた。
玉枝おばさんに再開すると、叔母は住人にのぞき見られ続けることで精神状態がおかしくなり、ほぼ全裸で生活していた。彩子にも裸になるよう求め始め、ナイフを突きつけてきた。彩子はあわてて叔母の家を逃げ出した。
道に迷った彩子は、大西の街の最深部へと進んでいた。そこで見たのは、人にやたら執着し、のぞき見をしすぎて、顔に無数の目玉がくっついている怪物と化した人々の姿だった。
おそろしい世界から逃げ出そうとすると、道案内の仮面の男が再登場。じつはこいつが岸本くんを殺した切り裂きジャックだった。
あわや殺されるという寸前で、ナイフを持った玉枝が、切り裂きジャックを刺殺した。叔母は彩子に街を出る道を教え、自らはのぞきの街へと消えていくのだった。
この漫画の要点は
・夢と現実がごっちゃになっている
・主人公はのぞき見され、常に悪者にされてしまう
・街は人をのぞき見する人々で溢れかえっている
・のぞき見する人々は、のぞき見してない!と言いつつ、のぞき見している
・住人にプライバシーがない
路地裏、相部屋、旅館など中身が濃い短編集でした。
ちなみに調べたところ、「道のない町」は、短編集『サイレンの村』(1993/5)に収録されていたものを、傑作集6に再掲載したもの。
1993年の時点で、すでにこんな世界観があったとは。
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