たっちゃんの古代史とか

誰も知らない日本とユーラシア古代史研究。絵も本も書く。闇の組織に狙われてるアマ歴史研究者。在宅お仕事中。

三角縁神獣鏡の秘密1

1・死者の霊魂と三角縁神獣鏡

神鏡とも呼ばれる銅鏡は、主に古墳時代までに重用されたもので、大和王権が権威を誇示するために地方豪族へ分配され、中国人から鬼道と呼ばれた倭人の祭祀に於いては、呪術に欠かすことのできない、祭祀用具の役目も果たしたともされます。
この小さな円形の青銅製品は、表面に施工された模様と形状から多くの種類に分類され、日本全国の遺跡や古墳から、数えきれないほど数多く見つかっています。
銅鏡の中でも特に、一般的な知名度が高いのが「三角縁神獣鏡」だとおもいます。
外縁部の断面が三角形状であり、尚且つ神仙の思想に基づいて、『山海経』で西方の崑崙山に住むとされる仙女「西王母」とその夫「東王父」が刻まれ、ほかに龍や虎といった獣の姿も見られます。「三角縁獣文帯四神四獣鏡」とか、「三角縁波文帯三神三獣鏡」、「三角縁唐草文帯三神二獣鏡」などいくつかの種類があるそうです。
魏の年号銘が入った三角縁神獣鏡が見つかったことなどから、この銅鏡は中国の魏から卑弥呼に下賜(かし)された、百枚の銅鏡であるとして注目されることになりました。しかし最近までに全国各地の遺跡から出土している三角縁神獣鏡の数が、似せて造られた「仿製」も含めると累計500枚を超えてきました。
しかも中国から同様の鏡は、1枚も確認されていないことから、三角縁神獣鏡は、魏から贈られた銅鏡百枚では無いとの見方もあるようです。
『古墳とヤマト政権(文芸春愁)』の白石太一郎氏は、古墳から出土する三角縁神獣鏡の場合、棺内の被葬者を取り囲むように並べられている状況から、被葬者を守る魔除けの役割を持たせたとの見方より、むしろ「古墳の被葬者の霊を封じる呪具としての意味が大きかった」と述べられています。

古墳の副葬品としての三角縁神獣鏡が、死者の霊魂を封じる目的を持つとの解釈は、古代の倭人が陵(みささぎ)に対して、聖地という前向きな観念を持つと共に、「死者は祟るもの」と畏怖し、忌み嫌う観念をも持っていたことを、顕現しているのだと考えられます。
日本書紀』で、亡者となった伊弉冉尊(いざなみのみこと)を追いかけて、伊弉諾尊(いざなぎのみこと)が黄泉の国へ向かうという神話に、その思想が現れています。
イザナミの体には膿が流れ、蛆が湧き出、黄泉の雷神が寄生しており、見る影もない姿を見られて逆上した死者イザナミは、黄泉日狭女(黄泉醜女)を引き連れて、夫であるイザナギを追いかけて命を奪おうとします。
倭人が伊弉諾・伊弉冉神話を知っていたならば、当然「死者の霊魂は恐ろしい」と畏怖することになったでしょう。
私は小説の中でも特に、ホラー小説を好んで良く読むほうです。現代人が幽霊とか、悪霊、怨霊と呼ばれる死者の霊魂によって呪い殺される系統の作品は、留まること無く、毎年続々と登場してきます。
現代の日本人の遺伝子にまで刻まれていそうな、幽霊を恐怖する話は、伊弉諾神話の中からも窺い知ることが出来、その原型は卑弥呼の時代に生きた倭人より、さらに過去まで遡るものである筈です。
怨霊と化したイザナミは、最終的にイザナギの呪術によって、黄泉平坂(よもつひらさか)で封じられることになります。
イザナギは、身につけた装飾品を食べ物に変え、追いすがる鬼女たちに投げつけたり、放尿して川を作ったりして進路を妨害し、最終的に黄泉平坂にある冥界の入口を、道返大神(ちがえしのおおかみ)という巨大な岩で封じたのです。
陵の恐ろしい死者の霊魂は、神器を用いて封じ、同時に死者を悪霊から守らなければならないとする理念は、古墳の棺内に銅鏡を含む神器を副葬することで、達せられたのではないでしょうか。

2に続く